LOGIN双子たちのおしゃべりを聞きながら、エマはナタリナに手伝ってもらい、貴族令息の服装に着替えた。
姿見をみて、服を確かめる。 明るいベージュの外套に、銀糸の縁取りが、上質で品の良い貴族らしさを表している。エマの金髪は横髪が長いので、編み込んで後ろにまとめた。ふだんは法衣を着ているので、自分の姿なのに見慣れない。 胸元には小さな家紋風ブローチを留め、動きやすい乗馬用のブーツを履いた。 「ナタリナ、どうかな?」 エマは恥ずかしそうにナタリナを見あげた。 エマの、輝くような金の瞳と、穏やかに微笑む唇。凜とした佇まいは、王族と名乗ってもおかしくないほどの気品がある。 それでいて、親しみを感じるのは、エマの柔らかい雰囲気のおかげだ。 「まあ! とてもよくお似合いですわ、エマ様」 「そう? 良かった」 エマが衝立の外に出ると、みんなすでに着替え終わっていた。 ナタリナは、紺色の落ち着いた双子たちのおしゃべりを聞きながら、エマはナタリナに手伝ってもらい、貴族令息の服装に着替えた。 姿見をみて、服を確かめる。 明るいベージュの外套に、銀糸の縁取りが、上質で品の良い貴族らしさを表している。エマの金髪は横髪が長いので、編み込んで後ろにまとめた。ふだんは法衣を着ているので、自分の姿なのに見慣れない。 胸元には小さな家紋風ブローチを留め、動きやすい乗馬用のブーツを履いた。 「ナタリナ、どうかな?」 エマは恥ずかしそうにナタリナを見あげた。 エマの、輝くような金の瞳と、穏やかに微笑む唇。凜とした佇まいは、王族と名乗ってもおかしくないほどの気品がある。 それでいて、親しみを感じるのは、エマの柔らかい雰囲気のおかげだ。 「まあ! とてもよくお似合いですわ、エマ様」 「そう? 良かった」 エマが衝立の外に出ると、みんなすでに着替え終わっていた。 ナタリナは、紺色の落ち着いた侍女服に、今までと同じ濃い栗色の外套を羽織っている。 「エマ様! 素敵です~!」 「なんと品のある御姿でしょう!」 双子が歓声を上げてエマを褒める。 その背後にいるニコラとパトリックも、驚いたように目を丸くしていた。 「すげー! お坊ちゃまだ!」 「ニコラ! 無礼ですよ!」 はしゃぐニコラに、ナタリナのゲンコツが落ちる。 「いってー!」 「お前は思ったことを口にしすぎだ」 「兄上だって、そう思いましたよね!?」 涙目のニコラがパトリックを睨む。仲の良い兄弟のやりとりが微笑ましい。 「エマ様、あたし達の服どうですか?」 「二人とも、とっても可愛いよ」 「きゃあ!」 「嬉しいですわ~!」 嬉しそうに笑うシーシとスースは、ラベンダー色のお揃いのメイド服で、やはり、生成りのショートマントを羽織っていた。髪型もいつも通りで、シーシはポニーテール、スースはツインテールに結っており、髪のリボンは、シーシが赤色、スースが青色だった。
いつもエマのことだけを考えてくれた彼女に、楽しい思い出ができたのなら何よりだ。 「ふふ。良かったね、ナタリナ」 「エマ様のおかげですわ」 「僕は何もしてないよ?」 「快く送り出して下さったではありませんか。エマ様の寛大なお心に感謝いたします」 ナタリナはそう言って、エマの前に跪く。 「エマ様にお仕えできて、私は幸せですわ」 「僕も、ナタリナがいてくれて、幸せだよ」 「もったいないお言葉ですわ」 エマを見つめるナタリナの瞳は柔らかく、慈しみに満ちている。 初めて出会った時から変わらない、優しい笑顔だ。 見つめ合って微笑むと、双子が割り込んできた。 「ナタリナ様ばかり、ずるいです~!」 「あたし達も、エマ様が大好きですよ~!」 ナタリナの後ろで、双子が主張を始める。 エマは唇をほころばせ、側仕えの三人を微笑ましく眺めた。 + + + 翌日、昼前にはアレシオン城を出発することとなった。 伯爵一家と別れの挨拶をするときは、みな心からお礼を述べてくれた。とくに、セレナ嬢とフィリップは眦に涙を浮かべて、名残惜しそうな表情だった。 「エマヌエーレ様。こたびは本当にありがとうございました」 「またいつか、お会いできたら嬉しく思います」 心から別れを惜しんでくれて、エマも寂しくなったくらいだ。 城下町を馬車で進むと、来た時と同じように領民が道の両脇に並び、手を振ってくれた。 「聖樹様~! また来て下さいね!」 「聖樹様、ありがとうございます!」 エマは双子と一緒に物見窓から手を振って、彼らに笑顔で別れを告げた。 これからセフォルト領までは二日ほどだ。 「エマ様、楽しみですね!」 「あたし達もワイール領は初めてなので嬉しいです!」 「うん。僕も楽しみだよ」 はしゃぐ双子に笑顔で答えて、行きとは違う道のりを楽しん
長椅子に座って、スースが淹れてくれたお茶を飲む。 一息つくと、シーシが声を弾ませながら尋ねてきた。 「エマ様、帰りはワイール領へ寄られるんですよね?」 「うん。ユリック殿が許可して下さったから、観光しようと思って」 「あたし達も、ワイール領は行ったことないんです~!」 「初めて行くので、楽しみですわ~!」 シーシとスースも、観光と聞いて嬉しそうだ。 夕方になって戻ってきたナタリナにその話をすると、こちらも盛大に歓迎してくれた。 「まあ! ワイール領で観光を! アズレーヌの街は活気があって賑やかなので、よろしいと思いますよ」 アズレーヌは、サファイア鉱山の麓にある街だ。 温泉と宝飾品が有名な観光地で、領主の館もこの街にある。オスティン帝国やザルバード王国の商人たちもやってくるし、平民街と貴族街に分けられているため、身分を問わず多くの観光客が訪れる。 「じゃあ、報告書にあった場所を確認したら、その後はみんなで観光しよう」 「エマ様が宿泊されるのでしたら、アズレーヌの貴族街で、一等地の高級宿を押さえましょう!」 ナタリナが張りきるが、エマは慌てて口を挟む。 「ちょっと待って、ナタリナ。一等地だと、ワイール伯爵の館が近いからダメだよ」 「あら、そうでしたわ。うっかりしてました」 ナタリナが残念そうな顔をする。 今回はこっそり観光で訪れるので、ワイール伯爵に見つかるわけにはいかないのだ。 「では、中央に近い場所で、一番良いところを押さえますね」 「うん。よろしくね」 「エマ様! アズレーヌでは、サファイアの宝飾品が王都より安く購入できるそうですよ~!」 「ロイヤルサファイアの産地ですから、よそでは流通しない限定品もあると聞きました!」 シーシとスースの言葉に、ナタリナが答える。 「シーシと言うとおり、少し安く購入できますわ。王都で販売されるものは、輸送費が上乗せされてますからね」 「輸送費……あと、商人の手数料とか、そういうのもあるよね」
「それよりエマ様、昨夜はあまり召し上がってなかったでしょう?」 「今朝もですわ!」 「今日はゆっくりされると仰ったので、部屋で召し上がれるようにお食事を頼みました~」 「伯爵夫人には、昼食はこちらで摂るとお伝えしてあります~」 双子の心遣いにより、エマは部屋でゆっくり過ごすことができた。 城の厨房から運ばれた食事は、香草で煮込んだ山麓鹿のスープと、黒麦のパンに、地元で採れた山蜂蜜を少し垂らしたものが並んでいた。 素朴だが滋味深い味わいに、エマは自然と頬をほころばせる。 エマは双子たちとおしゃべりしながら、昨日の結婚式の話や、王都へのお土産をどこで買うかなど、いろんな話題で盛り上がった。 エマは、今回の仕事が終わったのでゆっくりしているが、補佐官のユリックは城下町の様子を視察しているらしく、アレシオン伯爵の家臣たちと打ち合わせに出かけている。 (ユリック殿は働き者だな) 昨日の今日で、しっかり動けるのがすごい。 昼下がりになって、ユリックの部下である執務官から、書簡が届けられた。 そこには、明日の昼にはアレシオン城を発ち、王都へ戻る予定であること、そして今回の帰路は、セフォルト領を経由する旨が記されていた。 (あれ……来たときとは違う経路で帰るんだ?) 地図を広げて確認したエマは、ふと胸の奥に引っかかるものがあった。 セフォルト領の隣は、ワイール領だ。 (できれば、ワイール領を通りたいけど……) レオナールから仕事を押しつけられていたとき、報告書にあった鉱山の運搬問題が気になる。 サファイア鉱山近くで小規模な地滑りがあり、盗賊も出ると言っていた。レオナールの筆頭補佐官は、迂回路も整備中だと話していたが、まだ解決していないのだろうか。 (鉱山で働く人達が、困ってないといいけど) 運搬経路の安全が確保されなければ、そこで働く領民も不安だろう。どの程度の被害なのか正確に分かれば、もっと具体的な改善案を出せる。 だから、自分の目で確かめたい。
「王太子殿下が列席されるご予定でしたけど……本音を申し上げれば、聖樹様がお越し下さり、本当にありがたいと思っているのです」 「そうなのですか?」 「ええ。王太子殿下の列席は名誉になりますが、女神様の祝福をいただく方が、私達にとってずっと喜ばしいことですわ」 セレナ嬢は笑顔を店ながら、そっとお腹に手を当てる。 隣に立つ新郎のフィリップを見つめて、優しく微笑んだ。 「領主一族は、国境を守り、領民を守ることが何を置いても優先されます。代々、この地を守ってきた誇りもございます。ですから、一族を増やすこと、その血を絶えさせぬ事が重要なのです」 「領民にとっても、アレシオン伯爵の一族は多ければ多いほど喜ばれます。辺境伯と呼ばれるとおり、領主一族はみな剣を取り、騎士となりますから」 フィリップも、穏やかな眼差しでセレナ嬢を見つめる。 (えっと……子どもがたくさんほしいってことだよね?) エマがちらっとナタリナに視線を向けると、にっこりと頷かれる。 王太子から聞いたときは半信半疑だったが、「聖樹の祝福を得ると、子宝に恵まれる」という言い伝えを、みな本気で信じているのだ。 エマも、いい加減な気持ちで儀式に臨むわけではないので、その効果があるのなら喜ばしいことだと思う。 「お二人の未来に、豊かな実りが訪れますように」 エマは祝福の一節を、あらためて二人に言葉を贈る。 (そっか……実りって、そういう意味もあるんだ) こうして公務に出ることで、いろんなことが見えてくる。 新郎新婦との挨拶が終わると、アレシオン伯爵が杯を手にやってきた。 「エマヌエーレ様! 我が娘のために、遠方よりご足労いただき、感謝いたしますぞ!」 「とんでもありません。お二人の新しい門出に、微力ながらお手伝いができたこと、嬉しく思います」 「エマヌエーレ様は、謙虚な御方だ!」 ガハハッと大声で笑う伯爵に、エマは何と答えていいか迷って、微笑み返した。 葡萄酒を水のように飲んでいるが、酔っている様子はない。だ
エマの手にあるその冠は、今まさに聖なる光が宿ったかのように輝いて見えた。 『聖なる女神イーリスよ。 今日、共に歩む道を選び、互いに結ばれるお二人に、 永き加護と揺るがぬ愛をお与えください』 エマの澄みわたる声が、神殿の高い天井に吸いこまれてゆく。 新郎新婦の瞳には、感激の涙が浮かんでいた。 『これからの未来に、豊かな実りが訪れますように。 その歩みが光に満ち、互いの心を温かく照らし続けますよう。 聖樹エマヌエーレ・イーリスの名において、ここに女神の祝福を授けます。』 祝詞を終えたエマがそっと目を開くと、新郎新婦は揃って女神の冠を受け取り、頭を下げた。 神殿にふわりと風が舞い、まるで本当に女神が微笑み返したようだった。 役目を終えたエマは静かに後方へ退き、再び控える。 まるで、そこに女神が佇んでいるような厳かな空気が、その場を包む。 アレシオン伯爵もユリックも、他の参列者も、しばし言葉を失って見守り続けた。 こうして、挙式はつつがなく、美しく幕を下ろした。 挙式を終えた新郎新婦は、揃って神殿の扉をくぐり、アレシオン城へと続く石畳の道を歩み出した。 晴れ渡る空の下、町の人々が列をなし、花びらを撒きながらふたりを祝福する。 セレナ嬢は緊張の解けた柔らかな笑みを浮かべ、フィリップも誇らしげにその手をとって進む。その姿はまるで絵画の一幕のようで、道行く者すべてが幸せの光に包まれていくようだった。 エマは神殿の階段の上から、幸せいっぱいに歩いていく背中を、静かに見送った。 手を取り合う姿は温かく、眩しくて、羨ましい。 (すごく幸せそう……僕もいつか、ルシアン様とあんなふうに結ばれるのかな) エマは、ルシアンの約束を信じている。 でも、本当にルシアンと結婚できるのか。あの二人のように、周りから祝福されるのか、エマには分からない。 (ルシアン様は帝国の貴族で、皇太子殿下の側近だから……